串田 一樹 氏
1974年に昭和薬科大学卒業後、助手、講師を経て、2001年から医療薬学教育研究施設講師に。日本社会薬学会幹事事務局長、医療廃棄物研究会理事学術委員、日本病院薬剤師会学術小委員会特別委員なども務めている。
昭和薬科大学医療薬学教育研究施設で、研究と学生の指導に力を入れる串田一樹先生。学生のみならず、薬剤師の職能の向上を目指して、点字薬剤情報の提供や薬局の手がけるHITの支援を行うなど、幅広く活動をしている。今回は、これからの薬剤師について、お話をいただいた。
在宅IVHを支援するのは薬剤師の責任
1980年代前半、医薬分業はまだ盛んでなかった頃。串田先生は昭和薬科大学の物理学教室当時で、IVH(中心静脈栄養療法)を行っている患者の微量元素について、研究を行っていた。IVHは、中心静脈に留置したカテーテルを介して、高カロリー輸液を投与する栄養療法で、短腸症候群の患者さんや癌外科手術により消化器官が切除され、そのために経口摂取不良や不能の患者に用いられる。
長期の高カロリー輸液による栄養療法では、セレンやマンガンなどの微量元素欠乏が危惧され、串田氏らはその研究を行っていた。
ある日、IVHを実施するクローン病患者の血液分析を行っていたとき、主治医から「薬の供給システムさえ確立されていれば、退院して自宅でIVHを行うことができる」という話を聞かされた。串田先生は医師のその言葉に少なからずショックを受けたという。「薬剤の供給システムが整備されていないために、その患者は入院し続けざるを得ない。
それは薬剤師の責任ではないのかと思ったのです。患者が安全に薬物治療が受けられるように、薬剤の供給を行うのは薬剤師の大きな仕事の一つではないのかと」と当時を振り返る。すでに欧米では、薬剤師の活躍のもと、自宅でのIVHが可能な環境が整っていた。地域保健医療が推進される中で、まさに薬剤師が担わなければならない大切な役割だと強く感じたという。
それから20年近くが経ち、分業の進展とともに、あの頃の串田先生の思いがやっと現実のものになりつつある。「これからは、患者のQOL向上はもちろん、医療費の削減という意味からも、在宅医療が進んでくるでしょう。自宅が病室となり、地域の医療従事者がチームを組んで、患者の在宅療養を支援する時代となる。
その中で、薬局薬剤師は今以上に在宅活動に力を入れ、医療チームの一員として存在感を持たなければならない」。医師、看護婦、介護者とチームを組み、情報交換を行いながら、より医療依存度の高い患者が在宅で安心して療養できるよう、薬剤の供給や患者サポートを行っていかなければならないと、力説する。
国家試験合格はスタートライン、そこからが勝負!
「薬剤師、特に薬局薬剤師は、地域の生活者支援をしていかなければなりません」と串田先生は続ける。医療チームの一員として在宅医療に貢献したり、処方せんに基づいて調剤や服薬指導を行うことも大切だが、それだけではいけないと言う。
薬局は地域の人々の健康を支援する場所であり、薬剤師は病気になった人のみならず、健康な人には健康を維持する方法を、少し体調を崩した人には健康を取り戻す方法を提供できなければならないと、話す。薬剤師の仕事は幅広い。
「さらに今、日本では医療費削減が大きな課題となっています。その中で薬剤師の能力が問われる場面が多く出てくるでしょう」。例えばリフィル処方せん、ジェネリック医薬品の使用推進、定額制などが今後導入される可能性を串田先生は示す。
リフィル処方せんとは、一定の期間内なら患者が受診することなく何度も使える処方せんだ。アメリカでは慢性期の患者を中心に発行されており、患者は薬局を訪れ処方せんを提示し薬を受け取る。これが日本でも実現したなら、薬局で薬剤師が患者の状態を観察し、患者の状態に変化が生じているようであれば、受診を勧告するというゲートキーパー的な役割を担うことになる。
薬剤給付の定額制度は、疾病管理が行き届くと、疾病に対応した医薬品リストから医薬品を選択して、医療保険からは一定額しか支払われない制度。 基準額を上回る金額の薬を使用すると、差額は患者負担となる。「今のように、処方せん通りに調剤するというだけでなく、臨床を知り、患者の状態を判断する能力、そして医薬品を評価する能力などが求められ、薬剤師に求められるものが大きくなるでしょう」。
串田先生は「ライセンスで保証されていた時代はもう終わりです」と告げる。薬剤師免許は最低限の資格であり、知識である。しかし本当に必要なのは、その先の"現場で対応する力"だというのだ。「大学を卒業してライセンスを持ってやっとスタート地点です。本当の薬剤師になるには、免許を取得してからが勝負」。そのため、最初に努めるところが一番大事だという。そこの薬剤師の実力が次の世代の能力を決めることになる。
時代の流れとともに薬剤師に求められることは多くなるはず。社会の期待に応えるためには、「業界全体が"薬剤師とは何か"をしっかりと見据えなければならない」と串田先生。現場の薬剤師に熱い期待とエールを送っている。
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