1974年、名古屋市立大学薬学部薬学科卒業後、東海銀行健康保健センター薬局入局。1987年に名古屋処方箋調剤薬局に入社し平針店の管理薬剤師に。1999年には愛知県薬剤師会学術部員となる。2000年介護保険開始とともに介護支援事業所ふれあいケア天白ケアマネージャーを兼務。同年、介護支援専門員指導者となる。2001年には愛知県薬剤師会在宅福祉特別委員会委員に。褥瘡ケアをはじめ在宅医療のエキスパート薬剤師として、各方面から講演依頼を受け、精力的にこなす日々を送る。
在宅の患者さんたちに薬剤師は一体なにができるのだろう――そんな問いかけをし続け、薬剤師の活躍の場を広げようと自ら実践する水野正子さん。薬局内で処方せん調剤を行うかたわら、ケアマネージャーとしてケアプランを作成し、また「愛知県褥瘡ケアを考える会」の代表として、褥瘡ケアマニュアルの作成や褥瘡ケアに関する知識の普及に努めてきた。
褥瘡ケアに積極的にかかわり、マニュアルを作成
きっかけは、褥瘡の薬物治療に力を入れる国立療養所中部病院薬剤科副薬剤科長の古田勝経氏の褥瘡ケアを見学したことだった。古田氏は「褥瘡の湿潤環境を保つこと」を基本とし、薬剤選択を行う。
「それまで褥瘡の治療といえば、とにかく乾燥させることだったのです。しかし褥瘡は、創の水分が60〜70%の湿潤環境を保つことが大切だと知ったのです」と水野さん。
創の湿潤環境を保てるような薬剤を選ぶことが、褥瘡治療の大きなポイントだと話す。
水野さんによれば、薬剤の選択には、往々にして薬理作用を持つ主剤だけを選択しがちだが、褥瘡薬の場合、基剤に注目する必要があるという。創部の水分が多い時は水分を吸収する基剤の薬剤を、水分が少ない時には水分を供給する基剤を使用した薬剤を混和することが大切だというのだ。
水野さんが代表を務める「愛知県褥瘡ケアを考える会」では、月に一回集まり、勉強会を続け、これらのノウハウを薬剤師向けの「在宅医療における褥瘡治療薬マニュアル」にまとめた。
マニュアルは水分測定器を用いて、写真とチェックポイントを参照すれば、初めて褥瘡を見た薬剤師にでもどのような薬剤を選択すべきかが分かるようになっているのが特徴だ。褥瘡の程度と創の状態ごとに、それぞれ適した薬剤が1種類ずつ紹介されている。
「経験がなくても現場で迷わないように、あえて1種類にしぼりました」と水野さん。
薬剤師が在宅の場で、活躍するためのツールになれば、との思いが伝わる。さらに薬剤選択の基準を他職種にも明確に説明できるように、水分含有率の表や、状況に対応しやすいよう複数処方例を載せた同「解説」も発行している。
もちろん薬剤師には処方権はないため、薬剤の決定はできない。しかし褥瘡治療薬について勉強をしていることを担当の医師にアピールすることで、医師から連絡をもらうことも多いという。「医師は専門分野の疾病に目が行きがちですし、看護婦は体位変換や栄養補給に気を配ります。在宅チームの中で、褥瘡の治療薬については意外と盲点なんです。
褥瘡は薬剤の選択によって、治り方が格段に違ってきます。そこにかかわっていけるのは薬剤師ならではではないでしょうか」。
国際学会にも参加し、多忙な毎日
水野さんは2000年4月の介護保険導入以来、ケアマネージャーとしてケアプランの作成にも携わっている。現在、20数名の要介護支援者を受け持ち、ケアプランを作成し、常に提供したサービスが、その利用者にとって適切かどうかを見つづけている。利用者を月に最低でも2回は訪問し状況を把握している。
「ケアマネージャーとして利用者宅を訪れると、薬剤師とは違った目で見ることができます」と水野さん。逆に患者や家族の意識が、薬剤師として訪れたときと、ケアマネージャーとして訪れたときで、ずいぶん違うことに気づかされることも多いという。
「薬剤師として訪れると、薬の話がメインで家族の状況や介護の環境について話が及びませんが、ケアマネージャーとして訪れると、いろんな相談が出てきます」。そのギャップに驚きながらも、まだまだ薬剤師が在宅の場では、患者や家族にとって身近な存在になりきれていない状況を感じるという。
褥瘡ケアという得意分野を持ち、ケアマネージャーとして患者のプランを作成し、サービス機関との連絡調整を行い、薬剤師として訪問服薬指導を行うことで、在宅患者にとって、またケアチームにとって、必要とされる存在になっていけるのではないか――そんな思いを自ら実践している水野さんだ。
最近は、学会活動や講演活動など、対外活動に忙しい。「褥瘡治療薬マニュアル」を作成した頃から、各地の薬剤師会や研究会などから講演依頼が舞い込むようになった。7月末には名城大学で開かれた「東アジア臨床薬学発展のためのフォーラム」でパネル発表。「国際会議なので、メンバーと徹夜で英語のパネルを作ったり、英語で質問されたときのためのアンチョコを用意したり、大忙しでした。実際はほとんどが日本の薬剤師さん。ただ韓国の薬剤師さんから、突然、日本の医薬分業について質問され、大あわてでした。褥瘡ケアに関するアンチョコしか用意してなかったものですから」と笑う。
9月1日からはシンガポールで開かれる国際薬学会議(FIP)へ愛知県薬剤師会から派遣される。今回は見学だけだが、「来年は発表してみようかな」と意欲を燃やす。23日には医療法人曙会が行う「あけぼの在宅医療勉強会」で「在宅医療における薬剤師の役割」というテーマで講演、10月は日本薬剤師会の学術大会で発表と、次から次へとイベントが待っている。
「薬剤師はとかくカウンターの中にこもりがち。自ら外へ出て、自分たちの出来ることを広げて、アピールしていかなくちゃ」と水野さん。在宅で薬剤師の活躍できる場はまだまだあるはずだと確信している。
愛知県褥瘡ケアを考える会では、「在宅医療における褥瘡治療薬マニュアル」と「在宅医療における褥瘡治療マニュアル解説」を各500円で販売しております。
詳しくは http://www5a.biglobe.ne.jp/~nagoyaph/jokusofu2html.htm まで。
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