佐野 幸子(さの・さちこ) 氏
1974年北里大学薬学部薬学科卒業後、9年間病院薬剤師として勤務。83年、二人目の子どもの出産を期に子育てに専念するため退職。子どもが小学校に入った89年に復職。PTA活動を行いながらも病院で3年間のパート勤務、3年間のドラッグストア勤務、新規調剤薬局の立ち上げなどを経験し、現在は株式会社富士薬品 与野調剤薬局の薬局長として活躍中。
薬局以外の場で、電話相談員として活躍〜ココロの支援ができる薬剤師に〜
「自分にできそうなことは何でもやってみたい。その結果、人の役に立てたら幸せ」と語る佐野氏。2人の子どもを育てながら仕事をし、さらに育児、教育に関 する電話相談や相談業務、エイズ電話相談、子育てアドバイザーなど、仕事以外の活動にも積極的に取り組んでいる。そのパワフルな活動ぶりをうかがった。
ココロの面で助けとなる存在になりたい
「常にアンテナを張っていて、興味のあることが見つかればすぐに実行する」と言う佐野氏。気になることはトコトン追求するタイプだ。「凝り性なんです」と自らを評する。
そんな佐野氏が今、力を入れているのが"ココロの支援"だ。そもそもは「人とのかかわりを大切にしたい」という思いだった。その思いが「人の気持ちをわかってあげられて、そしてココロの支えになれたら」という思いに行き着いた。
そんな思いが佐野氏の中で強くなった頃、阪神・淡路大震災が起こった。「何か役に立てることはないだろうか」。とにかく物資の郵送をしてみたが、どうしてもそれだけでは気がすまなかったという。そしてとうとう、泊り込みでボランティア活動へと出向いてしまった。
ボランティア活動を通じて、さらに"ココロの支援"ができる人になりたいという思いを強めた佐野氏は、臨床心理士の資格を取得するための勉強を始めた。ま ずは臨床心理士の受験資格を得るために、放送大学で心理学関係の単位を取得したのだ。もちろん薬剤師としての仕事を捨てたわけではなく、ココロの支援がで きる薬剤師を目指したのだ。
育児に一段落をつけて、すでに復職を果たしていた佐野氏は、仕事と家事の合間を縫って心理学の勉強をするというハードな日々を過ごした。にもかかわらず「とにかく勉強や、試験が楽しくて仕方がなかった」と佐野氏。「興味あることを自ら学ぶことの楽しさに気付いた」と話す。
興味のアンテナにかかったことは即実行!
必要な単位はすべて取得したものの、佐野氏は結局、臨床心理士の試験は受けなかった。その興味がより具体的な手法であるカウンセリングへ向ったからだ。そこで佐野氏は埼玉県が中心になって開催していたカウンセリング講座に参加し、カウンセリングの基礎を学ぶ。
ちょうどその頃、埼玉県PTA連合会が子どもを持つ親の相談所として「埼玉県PTA教育研究所」を開設。その存在を新聞で知った佐野氏は「PTAの役員活 動を長くやってきており、親や子どもたちの問題はたくさん経験してきた。なにか手伝えることがあるのでは」と思い、即座に「何かお手伝いできることはあり ませんか」と自ら電話をしたという。
興味のアンテナにひっかかったことには、即実行だ。
数ヵ月後、同研究所から「相談員として手伝ってほしい」と返事をもらい、佐野氏は薬局勤務のかたわら、休日を利用して電話相談員活動を始めた。その1年 後、「乳幼児電話相談員をお願いできないか」と、今度は埼玉県教育委員会から依頼があり、こちらも並行して活動するようになる。
相談内容は、育児や子育て、不登校、子どもとの関係、親同士の関係、子どもの教師との関係など多岐に渡る。休日に「子どもが熱を出した。以前、医師に処方してもらった薬があるが飲ませても大丈夫だろうか」など薬剤師の知識が役立つ相談も多い。
一回ごとが真剣勝負
その後、エイズ電話相談員に応募。こちらは半年に及ぶ研修会を修了した者だけが、相談員として登録が可能という厳しい条件つきだ。「研修では、途中で何度も試験があり、落とされる人もかなりいました」。
援助交際をしていたという少女が、HIVウイルスに感染してしまったのではないかと不安げに電話をしてくる。「不安な気持ちをすべて受けとめるところから相談業務が始まる。善悪の判断は二の次」と佐野氏は話す。
電話での相談業務は、その人のその後は一切わからない。見えない相手と短い会話の中から信頼関係をつくる難しさがある。一回ごとが真剣勝負だ。「でも一回ごと、一瞬ごとが大切なのは、どんな人間関係でも一緒です」。人と向き合うことの難しさを感じさせる言葉だ。
ココロと身体の健康を支援
これらの電話 相談業務はいずれも事業が終了してしまい、現在、佐野氏は電話相談員としての活動は行っていない。とはいえ薬局長業務だけに収まっている佐野氏ではない。 今はこれも県の事業である「埼玉県子育てアドバイザー」に登録し、依頼に応じて年に数回、学校や保育所などで講演を行っているという。「先輩母親として、 話をさせてもらっています」。
次回は中学校で『ココロと身体を健康に育てる為の親の心構え』というテーマで話をする予定だ。依頼先から設定されたテーマだが、"ココロと身体の健康"とは、まさに薬剤師としての業務と、ココロの支援を目指してきた佐野氏の活動を象徴するかのようなテーマだ。
「"ココロの支援"は、薬局業務にも多いに求められる部分です」と佐野氏。現在、より適切なサポートができるよう、再びカウンセリングを勉強中という。当面の目標はヘルスカウンセリング学会の認定カウンセラーを取得することだ。
「人とのつながりを大切にしたい」という思いから始まった心理学の勉強は、佐野氏の活動範囲を広げ、さらに薬剤師としての仕事に大きく影響することになったようだ。
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